O-1ビザ取得顛末記
自分がO-1ビザの申請をした時、研究者・科学者の申請に関する情報がインターネット上にほとんど無く難儀したので、備忘録的に体験談を書いておきます。*1
O-1を申請することになった経緯
外国人がアメリカの企業で働くには、就労可能なビザが必要になります。 アメリカ企業による正規雇用の場合*2、最もメジャーなのはH1Bビザを取ることです。しかし、H1Bビザに申し込めるチャンスは年に一回しかなく、申請から発給までにもしばらく時間がかかります。年間発給数も決まっているため、抽選に外れると次年まで待たなければなりません。多くの人は、アメリカの大学・大学院を卒業するともらえるOPTというシステムを使って働き始め、有効期間の1~2年のうちにH1B取得を目指すようです。
僕の場合、日本の大学院を出た後にポスドクを経由して就職したので、これには該当しません。その上、ポスドク時代に取得していたJ-1ビザに"Two-Year Home-Country Physical Presence Requirement"*3 という制限がかかっていたため、そもそもH1Bを取得することができませんでした*4。
幸いなことに、O-1というビザには
- いつでも申し込め、審査プロセスも早い
- Two-year ruleの対象外であり、Waiver手続きをしなくても取得できる
という利点があったため、僕の場合はこのカテゴリーでのビザ取得を目指すことになりました。このビザはIndividuals with Extraordinary Ability or Achievementの為とされており、"卓越した能力"を示すためにかなりの量の書類を用意する必要があります。比較的特殊なケースになるので弁護士費用なども高くなり、このビザのサポートをしてくれる企業も少なくなります。ただ、申請のハードルは思ったより高くなく、移民局のページに書いてあるようなノーベル賞を持っているようなレベルの科学者である必要は全く無いようです。
書類の用意
O-1を申請するにあたって何よりも重要なのは、科学者として卓越していることを示すための書類集めです。 USCIS(移民局)のページによると、以下のカテゴリーから少なくとも3つを満たす必要があるとされています。
- Receipt of nationally or internationally recognized prizes or awards for excellence in the field of endeavor
- Membership in associations in the field for which classification is sought which require outstanding achievements, as judged by recognized national or international experts in the field
- Published material in professional or major trade publications, newspapers or other major media about the beneficiary and the beneficiary’s work in the field for which classification is sought
- Original scientific, scholarly, or business-related contributions of major significance in the field
- Authorship of scholarly articles in professional journals or other major media in the field for which classification is sought
- A high salary or other remuneration for services as evidenced by contracts or other reliable evidence
- Participation on a panel, or individually, as a judge of the work of others in the same or in a field of specialization allied to that field for which classification is sought
- Employment in a critical or essential capacity for organizations and establishments that have a distinguished reputation
弁護士の人と話した感触だと、ある程度の論文数+引用数(4と5に該当?)をベースとした上で、その他をできれば2つ以上満たしたいという所でした。引用数はどれくらいがminimumなのかは分かりませんが、2桁でも大丈夫そうです(二桁前半・後半など細かくは分かりません)。特許も考慮されるようですが、どのカテゴリーに該当するのかはいまいち分かりません。僕の場合は結局、論文・引用・学会発表に加え、海外学振&国内学会のポスター賞を1に、論文誌のPeer-reviewerの経験を7に適用しました。O-1の取得を目指す可能性のある方は、カテゴリー数を増やすことも念頭に置いて、積極的にReviewerの役割を受けることをおすすめします。
併せて、申請には専門領域で確立された研究者からの複数の推薦状が必須です。僕は五通、(1)複数の国の人から and/or (2)自分の論文の論文を引用してくれている人から集めてくれと言われました。更に、そのうち少なくとも2通は今まで直接仕事・研究をしたことがない人からである必要がありました。最終的に、2通ずつをアメリカと日本の方に、1通をイギリスの方にお願いしました。
その他、僕が経験した・聞いたことのうち、役に立ちそうな事を列挙しておきます。
- 6に関しては、本当に飛び抜けた給料である必要があるようで、通常の会社勤めの人が満たすのは難しそうです。
- Citationのカウントやリストの作成にはGoogle Scholar Citationsを使いました(そのまま印刷して提出しました)。
- 僕は使っていないのでどうなのか分かりませんが、Web上で検索すると、O-1が通る確率を無料で評価してくれるようなサービスが有るようです。
- 貢献を数字として示しやすいIFやjournalの分野内でのランキング(Web of Scienceで調べられる)は、自分の論文・引用元の論文・Reviewerの経験のすべてにおいて重視されていました。
経過
ビザが手に入るまでの時間はおおよそ三ヶ月となりましたが、人によってかなりばらつきがあるようです(半年近くかかったという話も聞いたことがあります)。
- 11月中旬: 弁護士と連絡を取り始め、申請に用いる書類のカテゴリーを模索(およそ二週間)
- 11月下旬~12月上旬: Reference lettersを除く必要書類の準備の完了
- 12月中旬~1月上旬: Reference lettersも含めた必要書類の準備の完了*5
- 1月下旬: USCISへのPetition申請
- (2月上旬: 日本に一時帰国)
- 2月上旬: Petitionの承認(申請から約一週間強*6 )
- 2月上旬: ↑の数日後、I-797等面接に必要な書類の原本を弁護士からFEDEXで受け取る
- 2月中旬: 日本の米国大使館で面接 *7
- 2月中旬: ビザの貼付されたパスポートを取得(面接から一週間強)
結びに
上にも書きましたが、O-1取得のハードルは思ったほど高くないので、アメリカ就職を考えている科学者の方(特にポスドクからアメリカに来られている方)には一考の価値があると思います。
*1:もちろん必要な書類や手続の詳細などは個人・申請年によって違うので、詳細はケースを扱ってくれる弁護士の人にご相談下さい。
*2:インターンシップやポスドク等の場合はJ-1というビザを使うことが多いと思います。
*3:J-1プログラムの終了後、二年間母国に物理的に住まないと、多くのアメリカビザ・グリーンカードが取得できないという制限。政府系機関から給料を貰っていたりした場合に該当します。
*4:一応Waiver手続きをすることは可能なのですが、それについてはWeb上に色々と情報があるので見てみて下さい。
*5:ホリデーシーズンにかかってしまったため、少し手間取りました。
*6:Premium processingという、追加料金を払う代わりに15 calendar days以内に返事をもらえるという制度を使用しました。
*7:J-1の二年ルールに該当している人はアメリカ国内でビザをO-1に切り替えることが出来ないらしく、一時帰国して申請することになりました。第三国(カナダなど)でも一応は大丈夫なことになっているようですが、母国のほうが安全なようです。